研究概要 |
本研究は有機分子性光金属の設計と開発を行うに当り、機能性C60-TTPハイブリッドシステムを構築することを一つの目的としている。かねてより本研究室では、2分子のテトラチアフルバレン(TTF)が融合した2,5-ビス(1,3-ジチオール-2-イリデン)-1,3,4,6-テトラチアペンタレン(TTP)とその誘導体の合成を行い、それらをドナー成分として用いた分子性錯体の多くが低温まで金属的な伝導性を示すことを見出している。本研究では、良好なアクセプター性を示すC60とTTPの複合分子システムの設計のために、その合成と電子状態についての検討を開始している。 まず今年度はチオレート保護基を有するTTF誘導体を55%の収率で得ており、さらにこれをC60と反応させることにより、C60-TTF誘導体を63%の収率で得た。この中間体の酸化還元電位をCV法により測定したところ、TTF骨格に対応する2つの酸化波とC60部位に由来する3つの還元波が観測された。このC60-TTF誘導体の保護基を適当なアルカリで脱保護し、C60-TTFジチオレートを発生させた後、従来のTTP合成法を応用することにより、目的のC60-TTP誘導体が合成できることを予想している。現在、次の段階としてC60-TTPへの変換について検討中である。 さらに分子軌道計算により、C60-TTPの電子状態を同時に検討している。それによると、分子内にドナーとアクセプター部位が存在するため、HOMOはTTPと比べると0.17eV低下し、LUMOはC60よりも0.03eV上昇している。一方、HOMO-LUMOギャップ(6.36eV)はTTP(9.50eV)及びC60(7.70eV)よりもそれぞれ3.14、1.34eV減少しており、単一分子性導体として期待できることが明らかになった。以上に基づき、次年度はC60のアニオンラジカル状態における安定性を利用した光誘起分子性導体への展開を図る予定である。
|