研究概要 |
前年度合成したC_<60^->TTF複合分子のTTF部位にsp^2炭素あるいはチオフェン環を挿入したC_<60^->拡張型TTF複合分子(C_<60^->VTTF, C_<60^->-ThTTF)の合成に成功した。それらの電気化学的性質をサイクリックボルタンメトリー法により検討したところ、いずれの物質においてもドナー部位に相当する二対の可逆な酸化波とC_<60>部位に相当する四対の還元波が観測された。TTF部位には酸化活性な2,3-ジオール-2-イリデンが三箇所あるにも関わらず、二つの酸化波しか観測されなかった。それらの酸化電位はC_<60>の電子吸引効果により、C_<60>を持たない拡張型TTF分子よりも第一酸化電位では0.06〜0.08V、第二酸化電位では0.04〜0.05V高電位側にシフトしている。これより、第一酸化電位の方が第二酸化電位よりもC_<60>の電子吸引効果の影響を受けていることが明らかとなった。一方、C_<60>部位に相当する還元電位は拡張型TTFの電子供与効果によりC_<60>よりも第一、第二、第三還元電位で0.04〜0.09V低電位側にシフトをしていることが分かった。また、π共役系はC_<60^->TTF<C_<60^->VTTF<C_<60^->ThTTFの順で長くなるため、カチオン状態での安定性はC_<60^->TTF<C_<60^->VTTF<C_<60^->ThTTFの順となり、酸化電位はこの順に低電位側にシフトすると考えられる。しかし、実際の第一酸化電位はC_<60^->TTF>C_<60^->ThTTF>C_<60^->VTTFの順となっている。同様な傾向はC_<60>を持たない拡張型TTFについても見られ、C_<60^->ThTTFでは一電子酸化状態においてチオフェン環の芳香族性がなくなるために起こる不安定化との競合が起こっていると考えられる。C_<60^->VTTF,C_<60^->ThTTFの誘導体は加圧成型試料において,いずれも室温で10^<-8>S cm^<-1>であり、C_<60^->TTFと同程度の伝導性を示すことが明らかとなった。 上記の結果をまとめた論文については投稿準備中である。
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