研究概要 |
試料として用いるチタン酸バリウム結晶は圧力ポーリングおよび電場ポーリングにより単一分域化処理したものである。良く知られているように,チタン酸バリウムは406±2Kにおいて正方晶から立方晶に相転移し,低温相である正方晶においては自発分極をもつ。この相転移を室温で超短パルスレーザーを用いて誘起するには次のようにした。まず、空間変調器センセサイザーを用いてコヒーレントフォノンをつくることを試みた。 基本的にはマイケルソン干渉計の繰り返しを用いた。ビームがビームスプリッタによって2つに分けられ,行路差をつけられた後(それぞれのアームの長さをI_1,I_2とする)また同じビームスプリッタによって同一ビームに戻され出射される。これによってτ=2(I_1-I_2)/c(cは光速)だけの時間差をもつダブルパルスを生成できる。これをN回(もちろん行路差はNτにセットする)繰り返し、2N個からなるパルス列を作ることができた。(こうした多段接続マイケルソン干渉計を実際に作成して用いた半導体超格子中のコヒーレントフォノン生成の研究も報告されている。)もっとエレガントな方法としては、いわゆる光シンセサイザーによる方法がある。これは,光のスペクトルの振幅と位相に適当な変調を与えることによって任意の時間波形を発生するものであり、不定間隔のパルス列や位相が少しずつ変わっているパルス列,偏光が異なるパルス列等の生成が確認されている。こうして作成したフェムト秒パルス列を用いてコヒーレントフォノンの生成を行えた。 コヒーレントフォノンの観測はボックスカーズ配置の誘導ラマン過程によって行った。すなわち、2つのポンプ光によってコヒーレントフォノンの定在波によって回折される強度を遅延時間を変えながらモニタした。コヒーレントフォノン生成を利用すれば,1テラヘルツ以上の振動数をもつ分子構造やフォノンを大振幅で発生することが可能であり,化学反応や構造相転移を光によって制御することが期待できる。
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