本研究では、フェムト秒レーザーによって誘起される多光子過程などの非線形光学効果を通じて、光物理反応や光化学反応に基づくガラス内部の改質とそれの三次元集積化を最終目標に、そのための基礎研究を展開した。特に、波長変換素子に有用なガラス材料を創製するための実験を行った。以下に、本研究によって得られた成果の概念を述べる。Li_2O-Nb_2O_5-SiO_2系ガラスに200kHzの繰り返し周波数のフェムト秒レーザーパルスを集光照射すると、レーザー光照射時間が長くなるにつれて、試料内部の照射領域の屈折率が変化し、数分間の照射で中心に析出物が現れた。これに対して1kHzの繰り返し周波数のレーザー光照射では、1時間以上の照射にもかかわらず、クラックのみが形成された。繰り返し周波数200kHzのレーザー光照射の結果現れた析出物を同定するため、表面付近の数多くのスポットにレーザーを照射した試料に対して、XRD測定を行った結果、Li_2O-Nb_2O_5-SiO_2系ガラスにフェムト秒レーザーを集光照射することで析出した物質は非線形光学結晶であるLiNbO_3であることがわかった。また、レーザー照射中、ガラス内部から結晶が析出したと思われる瞬間に、結晶が散乱中心となり青色の発行が見られるようになる。この発光のスペクトルを測定すると、800nmの波長を持つ入射光に対して、半分の波長である400nmの第二高調波の発生が確認され、レーザー光照射領域に大きな非線形光学係数を持つ非線形光学結晶が析出することが明らかになった。本研究の結果は、超短パルスレーザーを用いてガラス内部に空間選択的に非線形光学結晶を析出させることが可能であることを示しており、フェムト秒レーザーの照射条件を最適化することにより配向した結晶を析出させ、さらにこれを導波路とすることで、波長変換素子への応用が期待される。
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