前年度には、各種ヘテロ原子化合物のラジカル開始段階、ならびにそれらヘテロ原子化合物による炭素ラジカルの捕捉能力を系統的に研究した。さらに、ヘテロ原子単独ラジカル反応系による各種不飽和結合へのヘテロ原子、特に16族、17族ヘテロ原子の高選択的導入反応を見出した。以上の結果を踏まえて、本年度は、異種ヘテロ原子複合系での反応特性の解明と、各種ヘテロ官能基の高選択的な複合型導入法の開発について詳細に検討した。その結果、本年度の研究成果は以下のように要約できる。(1)可視光照射条件下、ジスルフィド-ジセレニド複合系を用いて各種不飽和結合へのラジカル付加反応について検討した結果、光は主としてジセレニドが吸収し、ホモリティックに開裂してセレノラジカルを生成する。(2)アレンのような反応性の高い不飽和結合に対しては、セレノラジカルが直接付加し、ジセレニドの付加体を速度論的生成物として選択的に与える。さらに光照射を継続するとアリル位のセレノ基がチオ基に置換され、熱力学的生成物としてチオセレノ化物が位置選択的に生成する。(3)通常のアセチレン、オレフィン類への付加は、まずセレノラジカルがジスルフィドを優先的に攻撃してチイルラジカルを与え、これが不飽和結合に付加した後、炭素ラジカルの捕捉能力の高いジセレニドにより捕捉され、位置選択的なチオセレノ化物を与える。(4)イソシアニドへの付加については、芳香族イソシアニドでは(3)と同様にチオセレノ化が進行する。一方脂肪族イソシアニドでは速度論的生成物としてチオセレノ化物を初期的に与えるが、不安定なため光照射を継続すると熱力学的生成物としてジチオ化物が得られる。(5)共役ジエンの場合も脂肪族イソシアニドと同様の現象が観測された。これに基づいて、ジスルフィド単独では進行し難い共役ジエンのジチオ化が同族のジセレニドにより触媒化されることが明らかとなった。
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