前年度には、各種ヘテロ原子化合物の複合型ラジカル反応系の開発を行い、個々のヘテロ原子の特性を活かすことにより、複数のヘテロ官能基を位置選択的に各種不飽和結合に導入できることを明らかにした。この研究成果を踏まえて、本年度は、増炭素を伴うヘテロ原子複合導入法の開発について検討し、以下に示す研究成果を得た。(1)ジスルフィド、ジセレニド、およびジテルリドは、光照射下でのホモリシスにより対応するヘテロ原子ラジカルを生成する。そこでこの反応系を用いて、1炭素増炭試剤であるイソシアニドへのこれらヘテロ官能基の導入を検討したところ、いずれの単独系においても付加の効率が極めて低いのに対して、ジスルフィドとジセレニドの複合系においては、効率良く付加が進行し、対応するチオセレノ化物が良好な収率で生成することを見い出した。(2)次にイソシアニドの分子内にアルケニル基を導入することにより、イミドイルラジカル中間体の捕捉に基づく環化反応を検討した。o-ビニルフェニルイソシアニドを基質に用いてジスルフィドとジテルリドの複合系により検討したところ、環化反応が選択的に進行することが明らかとなった。さらに、同様の条件下o-アリルフェニルイソシアニドを基質に用いた場合には、対応する6員環環化生成物が選択的に合成された。(3)上記の分子内反応に対して、イソシアニドと炭素-炭素不飽和化合物との分子間での高選択的な結合生成を目的に種々検討したところ、ジセレニドの適度な炭素ラジカル捕捉能力を有効に活かすことにより、可視光照射下ジセレニドが電子吸引基を有するアセチレンとイソシアニドに効率良く、かつ高選択的に分子間逐次付加することを明らかにした。(4)さらに本手法はイソシアニドのみならず種々のアルケン類を用いても進行し、例えば、エチルプロピオレート、2-メトキシプロペン、アクリロニトリル、およびジセレニドの4成分のカップリングに基づく5員環環化生成物を高収率で与えた。
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