研究概要 |
タングステン窒素錯体とルテニウム分子状水素錯体との反応により、温和な条件下でアンモニアを合成する我々の見出した反応は、化学量論的な反応ではあるが世界的に脚光を浴びている。 本研究では、金属錯体上で活性化した窒素分子のプロトン化と還元に水素分子を利用する窒素固定触媒サイクルの開発に向けて、これまでジアミド/チオエーテル型3座配位子(RN^--o-C_6H_4)_2Sを設計し、それを有する種々のルテニウム錯体を合成した。また、[{(XyN-o-C_6H_4)_2S}Ru(C_6H_6)](Xy=3,5-xylyl)が窒素分子とは反応しないが、ホスフィンと組み合わせることにより窒素分子と等電子構造であるベンゾニトリルの水素化に触媒活性を示すこと、t-BuONaを添加することによりベンジルアミンが高選択的に得られること、また、窒素加圧下では、単離はされていないが分子状窒素が配位したと推測される錯体[{(XyN-o-C_6H_4)_2S}Ru(N_2)(PMe_3)_2]が生成することなどを明らかにしてきた。 本年度は、硫黄より電子供与性の強いホスフィンやアミンを含むジアミド/ホスフィン型3座配位子(RN^--o-C_6H_4)_2PPh、ジアミド/アミン型3座配位子(RN^--C_2H_4)_2NMe等を設計し、それを配位子とする種々の錯体を合成することにより中心金属上での窒素の活性化を目指したが、達成には至っていない。ベンゾニトリルの水素化反応に対しては、[{(C_6F_5N-C_2H_4)_2NMe}Ru(C_6H_6)]とP(cyclohexyl)_3の組み合わせにより、t-BuONaを添加することなくベンジルアミンが定量的に得られることを明らかにした。 一方、窒素固定酵素の活性部位が金属-硫黄クラスターであることに着目して、種々の[RuMo_3S_4]骨格を有するキュバン型クラスターを合成し、その反応性を検討した。Ru上に分子状窒素の配位した錯体は得られていないが、[(Cp^*Mo)_3(μ_3-S)_4RuH_2(PAr_3)](Ar=Ph, p-tolyl)と窒素固定関連基質であるヒドラジンを反応させるとヒドラジンの不均化が起こり、アンモニアと窒素が生成することを明らかにした。
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