研究概要 |
本研究は9族遷移金属錯体を触媒とした中性条件下での、多成分一挙連結法の開発とその合成化学的展開を目的とする。この目的を達成するため、本年度は 1) 環化シリルカルバモイル化を鍵ステップとする光学活性α-シリルメチレンラクタム骨格形成、2) ヒドロホルミル化類似の条件下におおける環状ケトン新規形成法の開発、ならびに3)低原子価ロジウム錯体の特異的機能発現要因の解明に焦点を合わせて、研究を進めた。その結果、低原子価ロジウム錯体およびDBU(1,8-diazabicyclo[5.3.0]undec-7-ene)を触媒として、ヒドロシランおよび一酸化炭素の共存下で反応させると、アルキニルアミンから一挙にα-シリルメチレンラクタム環が形成されることを見出た。現時点では、その収率は低いものの、この手法がピロリチジノン骨格、カルバペナム骨格など双環性ラクタム環の簡便な構築手段としても利用できることを明らかにした。また、天然アミノ酸から立体選択的に誘導したホモプロパルギルアルコールを出発基質として用いた場合には、アミノ酸由来の立体化学は保持したままで、γ-ラクトン骨格を経由してδ-ラクタム骨格に至る新ルートの確立に成功した。現在では、この方法を用いてプミリオトキシン251Dの基本骨格まで構築するに至っている。 一方、報告者らが見出した1,6エンイン骨格の環化シリルホルミル化は温和な条件下でも容易に進行するのに対し、H_2/COを反応剤とした場合には、反応性は極端に低下するが、アルキン末端にアリール基を導入したエンインを用いると、7員環ケトンが主生成物となることを見出した。この方法は、鎖状出発基質から一挙に7員環ケトン類を構築するための新規ルートとしてきわめてユニークである。と同時に、この結果はRh-Si結合へはアルキン部位の挿入が、また、Rh-H結合へはアルケン部位の挿入が優先することも暗示しており、炭素-炭素結合形成のための反応設計においてきわめて重要なヒントを提供するものである。
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