ポリアセチレン、ポリフェニレンなどの長鎖π共役分子は有機機能材料として注目されている。また一次元性ポリ金属ワイヤーも無機系の機能材料、触媒として興味深い。本研究の目的は次のように要約される。1)これら二つの共役システムを配位結合を利用して接合させ、直線状の長鎖有機金属複合体を合理的に構築する方法を確立すること、2)合成した一次元複合体の触媒機能や電気特性を解明し、新規機能性有機金属複合材料を開発することである。本年度は合成した一次元複合体の光物性や電気物性の解明を行った。 まず2分子のジフェニルテトラエンがPd-Pd-Pd鎖をはさみこむサンドイッチ錯体のメソ異性体とラセミ異性体間の光駆動相互変換が起こることを見いだした。メソ異性体では2つのオールトランス型テトラエン骨格どうしが重なり合うエクリプス配置であるのに対し、ラセミ異性体では互い違いにあるスタッガー配置であることをX線構造解析から確かめた。2つの異性体間の相互変換は、単なる加熱ではまったく起こらないが、510nm以上の可視光を溶液中で照射すると室温下、短時間で進行して光定常混合物となる。テトラエンの両端の置換基として、p-t-ブチルフェニル基を用いると、類似の光駆動異性化により、暗所における熱力学的異性体比とはかなり異なる光定常比の混合物が得られた。すなわち光エネルギーが蓄積される結果となった。またπ共役系の拡張されたp-スチリルフェニル基を持つテトラエンサンドイッチ錯体の電子スペクトルは、可視部により強い吸収を持つ。これと対応して、この錯体の光照射は、はるかに迅速な光異性化を引き起こした。光照射に代わって電解を含む酸化還元プロセスでサンドイッチ錯体に摂動を与える試みは成功しなかった。
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