研究概要 |
ケトンとNaHを含むTHF溶液(ケトンとNaHを混合しただけでは水素ガスが発生しない)にアルデヒドを加えると,アルデヒドの滴下と同期して水素ガスを発生しながら反応が進行し,通常0℃〜室温・数時間でC(2)位に置換基を有する1,3-ジオールが単一ジアステレオマーとして得られることを見い出し,本反応の適応範囲などについて系統的な研究を行った。極めて興味深いことには異種アルデヒド共存下に反応を行うとアルドール過程とティシュチェンコ過程で組み込まれるアルデヒドが,高い化学選択性で区別認識されるという事実を見い出した。塩化トリメチルシランの添加効果を調べたところある反応系では0.8当量の添加では殆ど影響がなく,無添加の結果と同じであった。3連続立体中心が非常に高いジアステレオ選択性で得られること,水素ガスの発生のタイミング,異種アルデヒドが二つの反応段階で高い化学選択性で区別されること,塩化トリメチルシランの添加で反応が影響を受けないこと,等を考慮して反応機構を考察した結果,ケトン,アルデヒド2分子,およびNaHの4化学種を含む非エノラート機構を提唱した。 このような驚くべき特性を示したNaHの化学に触発されて,他の一般的な伝統的塩基に目を向けた結果,3級ブトキシカリとアンモニウムヒドロキシドの関与する,それぞれ,単純ケトンとα,β-不飽和エステルとのマイケル・クライゼン連続反応によるシクロヘキサン-1,3-ジオンの合成法及び新しいアセチリド発生法を開発した。さらに,そのアセチリド化学に端を発した新しい発想として,アセチレンの双方向炭素鎖伸長素子としての更なる活用に道を拓く,プロパギル・アリル混成型カチオンの化学に取り組み,有機合成上有用と考えられる幾つかの有機合成反応を見出した。本研究で見出した新規有機合成概念は,これまでにない有効な戦略として高度な有機合成変換に広く活用されるものと期待され,それらを用いる関連研究を引き続き展開する。
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