研究概要 |
本研究は、チオフェン環を主鎖に含有する縮合環ポリマーを設計・合成し、その構造を制御しながら三次構造に基づく新しい物性を開拓することを目的とする。空気酸化重合に関する従来知見をもとに、穏やか且つ簡便に分子量を制御しつつ芳香族高分子を合成、主鎖平面性に基づく共役系の拡大を実証する。具体的には、空気酸化重合により側鎖にアルキルスルフィニル基を導入したポリ(1,2-フェニレンオキシド)、ポリ(1.3-フェニレン)を合成し、分子内環化反応を経てフェノキサチイン、ベンゾチオフェンが縮合したらせん型高分子へと誘導、その構造を精密に同定し、π-共役平面性の拡張も分光学的に議論する。また、スルフェニルフェノール類の解重合機構を明らかにし、分子量の制御法を確立する。 (1)縮合環らせん高分子の合成 2-位にメチルスルフィニル基を有するフェノール誘導体を合成し、空気酸化重合条件を適宜選択することで、前駆メチルスルフィニル置換ポリ(1,2-フェニレンオキシド)を得た。強酸性下、分子内縮合反応を生起させ対応するフェノキサチイニウム型らせん高分子を構造欠陥なく合成した。その吸収スペクトルは前駆高分子にくらべ最大吸収波長、吸収端ともに長波長シフトを示し、らせん骨格におけるπ-共役平面性の拡大を初めて明らかにした。ベンゼンビスボロン酸エステルとメチルチオ置換ジブロモベンゼンをPd触媒を用いたクロスカップリングにより重合し、側鎖にメチルチオ基を有するポリ(1,3-フェニレン)を合成、側鎖の定量的な酸化、分子内閉環反応を経てベンゾチオフェン型剛直らせん連鎖を得た。NMR、IR、元素分析から構造を同定し、吸収スペクトルはπ-電子の非局在化に伴うバンドギャップの減少を支持した。 (2)フェノール類の重合および解重合機構の解明 ポリ(アルキルスルフィニルフェニレンオキシド)の解重合による分子量制御の高分子モデルとして、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)の解重合条件を検討した。モノマーである2,6-ジメチルフェノールを添加し、酸化条件下、フェノキシラジカルの生成により、平衡反応の制御が可能となり解重合が生起することを見いだした。解重合後の分子量は末端基濃度に依存し、理論値と一致した。ESR測定による中間体ラジカルの存在、吸収スペクトルから得た解重合速度定数は、再分配の繰り返しによる解重合機構を示唆した。
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