研究概要 |
将来の再利用型宇宙往還機の成否は,炭素繊維強化複合材料(CFRP)などの複合材料の燃料タンクを初めとした機体構造への幅広い適用による重量軽減に大きく依存する.この研究では,極低温燃料タンクをCFRPで製作することを視野に入れ,CFRP部材の効率良い結合方法として有望な接着継手について極低温環境がその力学的特性及び燃料漏洩に与える影響を調べ,接着継手の成立性を検討した. まず継手の力学的特性を把握するため,接着層を積層板の間に挟んだDCB試験片で,熱サイクル負荷(常温と液体窒素温度間で100サイクルまで),試験時の温度環境,接着層の厚さなどの条件を変えて破壊靱性特性を調べた.その結果,熱サイクルの破壊靱性値への影響は小さいこと,極低温の破壊靱性値への影響は小さいこと,試験片の自由縁近傍では熱サイクルでトランスバースクラックが生じ得ること,などが明らかになった.さらに,同じ接着材料を使ったシングルラップ及びダブルラップ接着継手試験片を製作し,引張耐荷試験を行ったが,熱サイクルにより耐荷能力が下がる傾向が見られ,熱サイクルが接着部端部の接着材料と母材(積層材)の界面で初期欠陥を誘発して接着部分が剥離することが疑われ,接着構造の耐荷能力に与える接着部位端部の欠陥を取除く処置の重要性が明らかになった.また接着層のトランスバースクラックは,ランダム繊維強化のマット型接着材料の使用で発生を抑えられることが確認された. 継手部を含む積層板構造における燃料の漏洩性について,積層板内に生じた損傷が拡散漏洩に与える影響を調べたが,トランスバースクラックが存在する積層板では,クラック密度の増加に伴って見かけ上の拡散漏洩も増大することが実験的,解析的に示された.一方で,クラックが繋がって漏洩経路ができない限り,拡散漏洩は燃料タンクにおける漏洩許容量以下に収まる可能性が高いことも明らかになった.
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