研究概要 |
航空分野と異なり流体シミュレーション(CFD)技術の信頼性が確立していないため,宇宙輸送分野では個別要素的な利用のみでこの技術が設計プロセスに組み込まれないという課題を解決し,今後開発されるロケットや再使用を含めた将来輸送系の設計に役立たせることを目標にCFD技術の検証と信頼性確立に向けた研究を行った. 単段再使用宇宙機については,風洞試験データの蓄積がほとんどないことから,突入カプセル形状ではあるが流れ特性が近くてデータが豊富にあるアポロ形状を最初のケースとし,そこから形状パラメータを変更した各種形状についてシミュレーションを行った.設計技術という意味で意図的に先端でなく普及レベルの手法でPCクラスの計算機でシミュレーションが可能なものを選んだが,結果は広いマッハ数,迎角範囲においておおむね5%程度の誤差で3分力を見積もれることが明らかになった.また,流れ場の解析から線形的,非線形的な領域といった空力特性を生み出す現象を明らかにすることができた.最終年度は,エンジンつき形状,バイコニカル形状などさらに具体的な形状に対してシミュレーションを行っている,以上の結果はデータベースとして公開している. 2段式の再使用宇宙機に関しては,基本は航空機のシミュレーション技術が適用できるので、加えて問題になるデルタ翼形状のシミュレーション技術の信頼性と遷音速城で生ずるフラッター現象シミュレーションの信頼性について検討を行った,前者については,コンパクト法と呼ばれる最新計算法を利用することで翼上面に生ずる前縁剥離渦現象の解像度は格段に向上したが,乱流モデルを利用する限り限界があることも明らかになった.後者のフラッター現象については,手法そのものの信頼性確認が不足していることに着目し,フラッタシミュレーションを行う際に必要となる時間積分刻みや計算領域に関して研究を行い,流れ条件からこれらデータを決定する基準を作った. 本研究を遂行中に,新しい技術としてLES/RANSハイブリッド法が登場した.この技術は,5から10年後には基幹的なシミュレーション技術となることが予想されるため,この技術に対しても宇宙輸送で現れる基本的な流れ場を対象に信頼性の検証を行った.これまでのシミュレーション技術で明らかにすることができなかったベース部分の流れの様子が明らかになり,あわせて,この手法により実験では困難とされるベース圧力の正確な見積もりが可能となったことを示すことができた. これらの成果は多数の国内,国際会議などで発表され,いくつはすでに学術雑誌に掲載,いくつかは現在投稿中の状況にある.並行して行った風洞試験,データベースの公開ともあわせて,本研究の結果から将来の再使用輸送系に有用な知見とデータを提供できたと考えている.
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