研究概要 |
本研究は,サツマイモ野生種における胞子体型自家不和合性の分子的機構を解明することを目的として,自家不和合性遺伝子座(S遺伝子座)を中心とするゲノムDNA領域の解析を行っている.本年度では,S遺伝子座を含むAFLPマーカー連鎖地図に基づいてBACライブラリーのスクリーニングを行い,S遺伝子座領域をカバーする全長約230kbのBACコンティグを得た.この領域は,遺伝子マップ距離が0.2cMに相当することから,S遺伝子座を含まない他の領域と比較して遺伝的組換え頻度が約1/10に抑制されていることが明らかになった.得られたBACコンティグ・クローンのうち,S遺伝子座と0cMで緊密に連鎖しているAAM-68マーカーを用いて得られたBAC-683クローン(約50kbp)について,ショットガン法により全塩基配列を解析した.その結果このクローンでは,(TATA)n等の反復配列や(GGG)n等の単塩基反復(SSR)が数カ所にわたって存在することが明らかになった.このような多数の反復配列(マイクロサテライト)の存在と上述の遺伝的組換えの抑制との間には,何らかの因果関係があるものと推察され,S遺伝子座領域における組換え抑制の分子的機構を解明するため,他のゲノム領域やS複対立遺伝子間での塩基配列情報の比較など今後更に詳細な解析をする予定である.さらにORF解析から,このBAC-683クローンには少なくとも5種類の遺伝子がコードされていると推定された.また,これらショットガンクローンをプローブとしてノーザン解析を行った結果,柱頭で特異的に発現している3種類の遺伝子と,葯(花粉)で特異的に発現している1種類の遺伝子が見出された.このうち葯特異的遺伝子は,Glucosyltransferaseをコードしていることが明らかになった.しかし,3種類のSホモ型個体から得たcDNAクローンについてアミノ酸配列を比較した結果,互いに95%以上の相同性を示しS遺伝子型間で顕著な多型性は認められなかったことから,この遺伝子はS遺伝子座に座乗する遺伝子ではないと推察された.3種類の柱頭特異的遺伝子のうちの一つは,相同性検索においてヒットするものがなく新規の遺伝子と考えられる.これら柱頭特異的遺伝子については,今後S遺伝子型間の多型性を調査する予定である.また,BACコンティグ内の他のクローンについても塩基配列の解析が進行中であり,S遺伝子座領域にコードされているすべての遺伝子についてそれらの機能を明らかにする予定である.
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