研究概要 |
植物の自家不和合性は、自家受精を抑制し他家受精を促進する遺伝的機構であり、これにより植物集団内の遺伝的多様性を維持し、植物が様々な環境変化に適応することに役立っている。またこの性質は、アブラナ科野菜における効率的なF1採種への利用や、果樹の着果率を左右する要因として農業的にも重要な形質である。この自家不和合性は、雌蕊における自家花粉と他家花粉との自他認識反応に基づいており、多くの場合単一遺伝子座の複対立遺伝子(S遺伝子)によって支配されている。本研究では、サツマイモ野生種における胞子体型自家不和合性の分子的機構を解明することを目的として,自家不和合性遺伝子座(S遺伝子座)を中心とするゲノムDNA領域の解析を行った.その結果、このS遺伝子座領域をカバーする全長約300kbのBACコンティグが得られ,ショットガン法により全塩基配列を解析した.得られた塩基配列データから、このゲノム領域には,1.5個のトランスポゾン様配列の挿入があること,2.多くの反復配列があること,3.遺伝子配列予測から43個のORFが推定されたこと,4.S遺伝子座周辺では遺伝的組換えが顕著に抑制されていること,等の特徴が明らかになった.さらに、遺伝子の発現解析を行った結果,このS遺伝子座領域では少なくとも28個の遺伝子が発現しており,このうち5個の遺伝子は雌蕊の柱頭で,また4個の遺伝子は花粉を含む葯で特異的に発現していることが明らかになった.これらの遺伝子は、アブラナ科やナス科で明らかにされている自家不和合性遺伝子と類似性が全く認められないことから、サツマイモ野生種にはユニークな自家不和合性機構が働いていることが示された。本研究によって、自家不和合性遺伝子の有力な候補が見出され、ヒルガオ科植物における自家不和合性の分子機構を解明する大きな糸口が得られた.
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