Furovirus属のタイプ種であるムギ類萎縮ウイルス(Soil-borne wheat mosaic virus、SBWMV)は2分節RNAをゲノムとする棒状ウイルスである。世界各地のムギ類に発生し、ウイルス病原性が土壌生息菌によって長年維持されるため、菌汚染圃場からのウイルス病防除は困難である。本研究ではSBWMVによる病害防除を目的に、ウイルス複製、病原性および伝搬性に関する基礎的研究を行なった。成果の概要は下記の通りである。 1.SBWMVの複製機構を研究するために、日本、米国、英国各分離株について感染性cDNAクローンを構築し、in vitro転写産物によるオオムギ葉肉プロトプラストへの感染系を確立した。日・米・英3国産分離株間でのRNA組換え接種試験の結果、プロトプラストを用いた細胞レベルでの複製は全ての組み合わせて成立することが明らかとなり、3分離株間の近縁性が示された。 2.SBWMVの感染と発病は20℃以下の低温を必要とする。感染性cDNAクローン由来転写RNAをオオムギ葉肉プロトプラストに接種後、15℃から25℃の範囲で培養し複製適温を調べた。その結果、SBWMV RNAは17℃で最も盛んに複製し低温要求性が複製レベルであることが証明された。RNA2と他のウイルスタンパク質は低温要求性には関与しないことも証明された 3.野生型SBWMVをコムギで継代するとRNA2が欠失しコムギに対する病原性が激しくなる。野生型RNA2に対する感染性cDNA由来転写RNAを接種源とし、欠失現象と病原性を詳細に検討した。その結果、欠失は外被タンパク質下流のリードスルー領域に常にin-frameに生じ、病徴は欠失長に応じて激しくなる傾向が確認された。 以上の成果により、Furovirusの複製、病原性および伝搬性に関して詳細に研究するための基盤が築かれた。
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