研究概要 |
昆虫の体液にあって脂質を運搬するリポタンパク、リポホリンは脂質やカロチノイドを運んでいる。カロチノイドは絹糸腺においてリポホリンからつみおらされ、他の組織ではつみ下ろされない。カロチノイドが特異的にリポホリンから絹糸腺に取り込まれる仕組みは不明であった。この組織特異的運搬のメカニズムを明らかにするべく研究をおこなった。カイコにはカロチノイドの摂取や輸送に関わる遺伝子群が知られ、この遺伝子の突然変異体も保存されている。これら遺伝子の産物は、カロチノイドと特異的に結合するタンパクであろうと長い間想像されてきたが、最近まで実体は明らかにされなかった。そこで、カロチノイドと特異的に結合するタンパク(カロチノイド結合タンパク、Carotenoid Binding Protein,CBP)を絹糸腺から分離精製した。CBPは、カロチノイドの存在を示す黄色い器官に存在し、組織特異的な発現をしていることがわかった。また、カロチノイド関連遺伝子のうちY遺伝子型にはCBPが存在し、+^Y遺伝子型ではCBPはみつからなかった。CBPcDNAシークエンスから、カイコCBPは、ヒト由来のSteroidogenic Acute Regulatory Proteins(StAR)と相同性をもち、特に脂質結合部位(StAR related lipid transfer domain,START)が保存されていた。免疫組織化学的方法やELISA法によって、CBPは、リポホリンからカロチノイドを絹糸腺に取り込むために体液と接触する側に高濃度に分布し細胞内においても濃度勾配があることをあきらかにし、またタンパクの合成にも時期特異性のあることがわかった。この結果、カロチノイドが絹糸腺に特異的に取り込まれるには、CBPが必要であり、CBPがない器官には取り込まれない。これらによってリポホリンからカロチノイドを受け取る事ができ組織特異的運搬が可能になるものと思われる。 突然変異体を用いた実験から、1900年初頭から知られていたY遺伝子は、CBPの遺伝子そのものであって、血液にカロチノイドを含まない+^Y系統は、CBPが作られない変異体であることを分子生物学的方法によって明らかにした。
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