研究概要 |
われわれのグループは放線菌が生産する抗腫瘍抗生物質レプトマイシン(LMB)が核外移行受容体CRMに直接結合し、核外移行シグナル(NES)を介した核外移行を特異的に阻害することを明らかにしてきた。従ってLMBを用いることによって特定の蛋白質について簡便に核外輸送されるかどうかの判定が可能となった。そこで酸化ストレス、熱ストレスなどによって特異的に核移行する蛋白質の核内輸送調節機構を明らかすることを目的として研究を行なった。本年度は、酸化ストレスに応答して核移行する分裂酵母の転写因子Pap1について詳細な解析を行った。すでにわれわれは、Pap1のC末端領域のシステインにとんだ領域(CRD)にシステイン残基を含む酸化ストレス応答性のNESが存在することを明らかにしている(J. Biol. Chem.274,15151,1999)。今回、分裂酵母Crm1の各種変異体の中からPap1のNESの輸送のみが低下するようなものをスクリーニングしたところ、驚くべきことにLMBが共有結合するCrm1のCys-529がSerまたはAlaに置換したものがPap1のNESの核外輸送能が大きく低下し、Pap1が核移行して酸化ストレス応答性遺伝子の活性化が引き起こされることが判明した。Cys-529の変異体はHIVのRevのような通常のNESの輸送にはほとんど影響がなかった。さらにCys-529周辺は種間で高度に保存されており(中央部相同領域:CCR)、この部分がNES認識に関与することも考えられた。そこでその周辺に存在する疎水性アミノ酸残基に変異を加えると、HIVのRevのような通常のNESの輸送能が大きく低下した。以上の結果は、CCRがCrm1の基質認職部位であり、酸化ストレス感受性の核外輸送にはNESとCrm1の両者に存在するシステイン残基が重要であることが明らかになった。
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