脂肪酸合成には主に二つの酵素が必要である。アセチルCoAからマロニルCoAを生成するアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)と脂肪酸合成酵素である。中でもACCaseは鍵酵素であり、脂肪酸合成の最初のステップを触媒し、油合成量を決めている。この酵素は二つの活性からなっている。ビオチンカルボキシラーゼとカルボキシルトランスフェラーゼ(CT)である。葉緑体や細菌のカルボキシルトランスフェラーゼのアミノ酸配列を調べると、Znフィンガーモチーフに似た配列が保存されている。しかし、このモチーフと酵素活性にどのような繋がりがあるのかは不明であった。Znフィンガーモチーフは、様々な重要な機能をしていることがよく知られているので、このモチーフと酵素活性の間に相関があると仮定し、それを証明する実験を行うことを当研究の目的とした。 昨年度は、カルボキシルトランスフェラーゼ(CT)を精製するために酵素にヒスチジンタグをつけて実験を行った。しかし、ヒスチジンタグ自体も金属と強く相互作用してしまうので、Znフィンガーモチーフと酵素活性の相関はわからなかった。今年度はキチン結合ドメインを融合したCTを大腸菌で発現させて、精製し、モチーフと活性の相関を調べた。その結果、1)Znフィンガーモチーフを削除すると酵素活性がなくなること、2)キレート剤で配位している金属を除去すると酵素活性がなくなること、および、3)高周波プラズマ発光分光分析装置により配位している金属が亜鉛であること、を明らかにした。 以上より、CTのZnフィンガーモチーフには亜鉛イオンが配位しており、この亜鉛イオンの結合が酵素活性に必須であることを明らかにした。
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