酵母転写因子Yap1は酸化的ストレスを負荷されると核に局在し、標的遺伝子の転写を活性化する。Yap1の核外輸送シグナル(NES)はC末端付近に存在し、そこはcysteine-rich domain(CRD)と呼ばれるCys残基に富む領域とオーバラップしている。 酸化的ストレスを負荷した際のYap1のredox状態を解析した結果、CRD中のシステイン残基間でジスルフィド結合が形成されることを明らかにした。すなわち、CRDにはCys598、Cys620、Cys629という3つのシステイン残基が存在するが、過酸化水素処理によりCys598とCys620間で優先的にジスルフィド結合が形成された。また、これらのジスルフィド結合は、グルタチオンの酸化・還元状態とは独立して生じており、Yap1が直接酸化的ストレスのセンサーとして機能していると考えられた。さらに、Yap1のCRD中のジスルフィド結合はチオレドキシンにより還元されることを明らかにした。 一方、メチルグリオキサール(MG)を代謝する酵素グリオキサラーゼIが欠損した酵母(glo1Δ)細胞内ではYap1が構成的に核に局在化していることを見い出した。その活性化は嫌気条件下でも観察され、また野生株とglo1Δ株の細胞内酸化度に差は認められなかったことなどから、glo1Δ株におけるYap1の構成的活性化は酸化的ストレスに依存したものではないと考えられた。また、glo1Δ株では細胞内MGレベルが上昇しており、大腸菌のglo1Δ遺伝子を発現させて細胞内MGレベルを低下させるとYap1の活性化が抑制された。一方、細胞外からMGを添加した場合、細胞内MGレベルの上昇と相関してYap1の核内への蓄積、ならびにその標的遺伝子の発現上昇が観察された。これらのことから、MGはYap1の活性化を引き起こしていると考えられた。
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