研究概要 |
アルツハイマー病は、神経変性疾患の一種であり、類似の疾患としてパーキンソン病やプリオン病などが知られている。現時点でその有効な治療法はほとんどなく、本疾患の発症メカニズムの解明が強く望まれている。42残基のアミロイドβペプチド(Aβ1-42)の過剰産生が遺伝性の家族性アルツハイマー病(FAD)において見られること、また本ペプチドの凝集体がin vitroで神経細胞毒性を示すことから、Aβ1-42はアルツハイマー病の発症において重要な役割を果たしていると考えられている(アミロイド仮説)。 Aβ1-42の凝集(アミロイド化)は、特定の部位がβ-sheet構造をとることによって引き起こされる可能性が指摘されている。本研究ではその部位を明らかにする目的で、β-sheet構造をきわめてとりにくいプロリン残基で、Aβ1-42の中心部分のアミノ酸残基(19,21,22,23,25位)を置換したペプチドを合成し、それらの凝集活性ならびにPC12細胞を用いた神経細胞毒性を調べた。これまで高純度Aβ1-42の化学合成は困難であったが、本研究者らは最近、PEG-PS樹脂を固相担体とし、HATUを活性化剤としたFmoc法を連続フロー型合成機で行うことにより、高純度合成する方法を確立した。 合成した各種プロリン置換Aβ1-42のうち、19、21、23、25位のプロリン置換誘導体はいずれも野生型Aβ1-42と比べて凝集能は低く、神経細胞毒性も弱かった。一方、22位のプロリン置換Aβ1-42は、野生型よりもはるかに高い凝集能ならびに神経細胞毒性を示した。これまでAβ1-42の中心部分(19-25位)がβ-sheetの核となって凝集するという考え方が一般的であったが、本実験結果は、これまでの仮説とは異なり、22位でβ-ターン構造をとり、分子内で逆平行のβ-sheetを形成することによりAβ1-42の凝集が開始するという新しい機構を提示するものである。
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