アルツハイマー病因ペプチドであるβアミロイド(Aβ)は、分子間でβ-シート構造をとることによって凝集し、その過程で神経細胞毒性を示す。Aβの凝集機構に関する知見を得る目的で、遺伝性の家族性アルツハイマー病(FAD)の変異型Aβを高純度で化学合成した。42および40残基からなるAβ(Aβ40、Aβ42)の21〜23位変異体10種の凝集速度を、HPLCによる遠沈法ならびにチオフラビンT蛍光法によって調べたところ、Flemish(A21G)変異体を除くすべてのAβ変異体が、対応する野生型Aβよりも速く凝集した。特に、Dutch(E22Q)およびItalian(E22K)変異体の凝集活性が高く、アミロイド沈着による激しい脳内出血という臨床所見ともよく一致していた。次にこれらの神経細胞毒性をPC12細胞を用いたMTT法で調べたところ、Flemishを除いたAβ変異体の毒性はいずれも野生型Aβよりも高かった。特に、Aβ42変異体の毒性は、Aβ40変異体に比べて50〜200倍も高かったことより、変異型Aβ42がFAD発症において重要な役割を果たしているものと考えられる。 これら変異型Aβの22、23位のアミノ酸残基は、ターン構造によく見られることから、22位を中心としてβ-シート構造をとりにくくターン構造をとりやすいプロリン残基で系統的に置換したAβ42誘導体約30種を合成し、それらの凝集活性および神経細胞毒性を調べた。その結果、22位プロリン置換体のみが野生型Aβ42よりもはるかに高い凝集活性と神経細胞毒性を示した。これより、Aβ42は、22、23位でターン構造を形成し、15〜21位および24〜32位で分子間β-シートを形成して凝集することが明らかになった。本結果は、Aβ42の凝集を阻害する化合物をデザインする上で基礎になるものである。
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