糖タンパク質に結合している糖鎖の役割について、抗原性、細胞接着、ガン転移、ウイルス感染に関連して述べられることが多い。しかし天然由来の均質なサンプルの入手が困難なため糖鎖機能の詳細は不明である。組み替え技術による単一グリコフォームの糖タンパク質の調製は現在のところ困難なので、均質なサンプル入手の課題に応えるものとして化学合成がある。我々はロイコシアリンやエムプリンのような生物学的に重要な糖タンパク質の合成研究を行った。N-およびO-結合型オリゴ糖鎖を効率的に再構築するために糖水酸基をベンジルエステルとして保護した。コア2型O-結合型4糖を二つ別々の合成ルートで研究した。そのうち、トリクロロアセトアミド基を用いたルートは特に効果的であって、立体選択的なβ1→6結合形成を達成した。合成した糖アミノ酸ビルディングブロックを用いて、糖ペプチドの固相合成を行った。合成したコア2型糖ペプチドは「低酸性度トリフルオロメタンスルホン酸」の条件のもと効率的に脱保護できた。この糖ペプチドを使った酵素によるシアリル化の研究は好結果を与え、ほぼ定量的にジシアロ6糖が結合したペプチドを生成した。 ガン細胞によって作られガン転移に関与する糖タンパク質であるエムプリンの第一イムノグロブリンドメインは一本のN-結合型オリゴ糖鎖をもつ。単糖、2糖および5糖が結合した同ドメインをセグメントの固相合成とチオエステル法によるセグメントのカップリングを組み合わせて合成した。このうち前2者を用いた生物試験では2糖が結合した糖ペプチドに繊維芽細胞によるコラゲナーゼ産生を刺激する活性があることが明らかとなった。 大きな糖ペプチドを合成するために固相合成法は必須である。我々はフルオリドリシスによって直交的に切断可能のシリルエーテル型リンカーを開発してきたが、これを用いて糖ペプチドチオエステルの新規合成を達成した。
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