研究概要 |
日本全国からミズナラ33集団、502個体を、コナラ22集団、58個体を、カシワ7集団、34個体およびナラガシワ3集団9個体のサンプル採集をおこなった。これらは日本に生育する落葉性ナラ類(コナラ節)の樹木のすべてである。これらについて葉緑体の遺伝子領域であるtrnT-L spacer, trn L-F spacer, atpB-rbcL spacer, matK codingおよびtrnH-K spacer領域、総計約4000bpの塩基配列を決定した。その結果、ミズナラでは9種のハプロタイプが区別された。これらは日本列島の各地域で地理的構造を持ったまとまりを示した。東北、北海道では2種のハプロタイプが、北海道の一部を除いて、それぞれ単型的に存在したが関東以西では7種のハプロタイプが地域的には局在するものの、全体として混在して存在した。これらは氷河期の最盛期においても落葉性ナラ類は西日本では大きな集団を作っており、逃避地集団に分かれた事実がないという花粉分析の結果と一致している。これに対し、東北日本の集団では北緯38度線以南の逃避地から氷河期以降北上して作られた集団であることが示唆され、遺伝的変異量の蓄積も少ないと考えられる。一方ミズナラと同所的に生育するコナラ、カシワ、ナラガシワはハプロタイプを共有しており、実際にこれらの間では交雑が起こり雑種が生じることが観察されていることから、葉緑体のイントログレッションが起こっていることが示唆された。 葉緑体変異による日本列島のミズナラの全体像がほぼ明らかになった。今後、集団の変異量をAFLP法を用いて解析する予定である。これによって地域ごとの変異量の蓄積を明らかにするとともに、連鎖解析を行って、AFLPマーカーのマッピングを行い、これを索引とする変異のデータベース構築を行ってゆく。
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