本研究は日本に生育する落葉性のナラ類、ミズナラ、コナラ、カシワ、ナラガシワの集団の遺伝的変異の蓄積量と地理的な分化の程度を明らかにするとともに、得られたデータを遺伝子データバンクとして整備し、遺伝資源の活用をはかることを目的としている。 昨年度までにすでに、ミズナラ33集団501個体、コナラ22集団58個体、ナラガシワ12集団20個体、カシワ8集団35個体のDNAを抽出し、遺伝子バンクとして整備した。本年度さらに韓国、中国およびロシアのミズナラ(モンゴリナラ)のサンプルを得て、葉緑体DNAの塩基配列決定による遺伝的変異の解析を行った。その結果、中央構造線付近を境として南西日本と、東北日本に大きく分化しているハプロタイプはそれぞれ氷河期の間に地続きとなった朝鮮半島と、サハリンを経由して南方と北方から移入してきたことが明らかになった。このことは二つのグループが気候条件に対して異なる適応を受けてきたことを示唆するものであり、今後の森林管理において重要な知見を与えるものと考える。この知見に基づいて、異なる適応の課程を明らかにするために、核遺伝子であるメチオニンシンセターゼ遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定して、地域による遺伝子の構造の違いを調べた。この結果、遺伝子重複によると考えられる、大きく分化した2つの遺伝子(α、β)が発見された。重複個体は東北日本に局在することが示された。一方南西日本ではαもしくはβが単独で存在した。中立仮説に基づいて自然選択を検討したところ、南北適応のあり方の違いが示唆された。
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