研究課題
基盤研究(B)
本研究では、南方系アワビ類のうち特にクロアワビとトコブシについて、フィールド調査と実験的手法を併用することにより、産卵時期と産卵要因、浮遊幼生の着底場、着底後の成長に伴う棲み場の変化、成長履歴、減耗の実態を明らかにする計画で研究を進めた。また、比較対照として、エゾアワビの資源変動要因についても検討を行った。浅所に生息するトコブシの放卵・放精が台風の通過時に同期的に行われることが強く示唆された。トコブシ幼生の着底量や初期生残率には浮泥の量と波浪の強さが、また、稚貝の生残率と成長速度には着底場の餌料環境と水温が影響を及ぼすことが示唆された。また、摂餌器官である歯舌の発達過程からトコブシの成長に伴う食性の変化を推定した結果、トコブシの食性は大型アワビ類とはかなり異なっており、それが住み場の違いに反映しているものと考えられた。クロアワビ及び同所的に生息する大型種のマダカアワビ、メガイアワビの浮遊幼生・初期稚貝は、親貝密度の高い禁漁区近くで10月〜1月に出現した。盛期は11月下旬であったが、対応する顕著な海況変化は認められず、台風に同期して産卵を行うと考えられるトコブシやエゾアワビとは異なる産卵生態を持つものと考えられた。初期稚貝の密度はトコブシに比べれば非常に低く、親貝生息密度の低下が再生産を阻害している可能性が示唆された。北方系のエゾアワビについては、現在の新規加入量を規定している重要な要因として、冬季の水温、親貝密度、初期稚貝期の餌料条件が抽出され、特に、初期稚貝の生残・成長に及ぼす冬季水温および着底場の餌料環境の影響がフィールド調査と室内実験の両面から明確にされた。
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