研究概要 |
本研究ではD型(非天然型)リン脂質の高感度分析法の確立と海洋生物、特に海洋細菌におけるその分布と機能および生合成経路を解明することを目的とし,本年度は以下のことを明らかにした. (1)海洋細菌14種(Alteromonas6種,Pseudomonas4種,Moraxella4種)を培養し,菌体膜を構成する主要リン脂質であるホスファチジルグリセロール(PG)を分離して,その立体構造をキラルHPLC法で調べた.その結果,8種(Alteromonas1種,Pseudomonas4種,Moraxlla3種)に,D型(非天然型)配置のPGが総PG中1〜6%の割合で存在することを認めた. (2)細菌における非天然型PGの有無は,細菌の化学分類法の一つとして利用できる可能性のあることが,他の分類法との比較により明らかとなった. (3)大腸菌4株について,PGの立体構造に及ぼす培養温度の影響を検討した.その結果,温度の上昇につれて,非天然型PGの割合は徐々に増加し,50℃では全PG中15〜25%もの多くを占めたことから,大腸菌はPGの立体構造を変えて環境の変化に適応しているものと推測された. (4)大腸菌や海洋細菌のPG分子種を同定するために,HPLC/MS法を確立した.キャピラリースキマー電圧を0-300Vまで変化させて生成する負イオンスペクトルを詳細に検討した結果,顕著な分子量関連イオン[M-H]^-の他に,構成脂肪酸に由来する[M-RCO]^-と[RCO]^-イオンが得られた.したがって,これらのイオンを用いることにより,PG分子種を極めて容易に同定できることが明らかとなった.
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