フィンガー流の発生は、土壌物理における長年のミステリーである。フィンガー流が生じる条件は、浸潤部の圧力勾配が上に向かって負になることである、一般に乾燥土に近い方がより低圧なので、均一土中のフラックス一定浸潤では、この状態は常識では考えられない。しかし、もし、乾燥媒体が「浸潤前線は大気圧に近い水圧でないと進行しない(水侵入圧の存在)」、または、フラックスに関わらず「浸潤前線は必ず飽和する」という特殊な物理性をもつならば、フィンガー流は必然となる。この仮説を確かめるために、細いガラスビーズカラムを用いてフィンガー発生を防ぎ、与えるフラック(q_O)が飽和透水係数(K_S)より小さい浸潤時の水分分布を得て解析した。 実験の結果得られた初期湿潤時の水分分布はダルシー式から予想される普通の浸潤水分分布であったが、初期乾燥の場合は、浸潤前線が完全飽和で、上部では排水過程となって水分が減少する特異な水分分布となった。この乾燥時の水分分布に対して、浸潤前線にほぼ大気圧の移動圧力境界条件を設定し、ダルシー式と連続式を適用して水移動を計算した。計算水分分布が実測をよく表すことから、浸潤前線の水圧が大気圧に近い圧力に維持され、これにより前線より上ではq_O<K(θ)となり(K(θ):体積含水率θの関数としての不飽和透水係数)、ダルシー式より排水過程となってフィンガー流発生条件となることが確認された。この浸潤前線では理論的に、水分量も圧力も粒子レベルで完全に不連続であり、そのため不連続面において(1)式は成立しないと考察された。
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