研究概要 |
我々は、甲状腺細胞FRTL-5をcAMP濃度を上昇させる薬剤で長時間前処理すると、IGF-I依存性細胞増殖が増強されることを見出している。この際、cAMP処理に応じたp125のチロシンリン酸化を介しPI 3-kinase(PI3K)が持続的に活性化されること、IGF-I処理に応じIGF-I受容体キナーゼ基質IRS-2がチロシンリン酸化され、これに相互作用しているPI3Kが一過的に強く活性化されるが、cAMP前処理によって、IRS-2と相互作用するタンパク質によりIRS-2チロシンリン酸化が増強され、PI 3K活性化が増強されること、そしていずれのPI3K活性化も相乗的細胞増殖に必須であることを明らかにした。そこで本年度は、cAMP処理やIGF-I処理に応じた細胞周期制御因子の発現変動を解析、更に、各々の刺激に応じたPI3K活性化がこれらの変動に果たす役割を検討した。まずCDK活性促進因子Cyclin D1,Eについては、cAMP前処理がIGF-I刺激に応じたmRNA増加を促進し、これをcAMP処理に応じて活性化するタンパク合成系が翻訳、その結果これらのタンパク量が著増した。一方、CDK活性抑制因子P27^<KiP1>については、cAMP前処理がIGF-I刺激に応じたユビキチン化・タンパク分解を促進、タンパク量が著減した。続いて、PI3Kの活性化の意義を阻害剤を用い検討したところ、cAMP存性PI3K活性化は、Cyclin D1,Eの翻訳促進に必要であり、IGF-I依存性PI3K活性化は、Cyclin D1,E mRNAの著増、P27^<Kip1>の著しいユビキチン化を誘導する役割を果たすことが示された。他の結果も併せ、cAMPまたはIGF-I処理に応じたPI3K活性化は、各々異なる機構を介して細胞周期制御因子の量を調節、その結果CDKが活性化、G1/S期進行が起こることが明らかとなった。
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