内分泌かく乱物質リスク評価のための精巣in vitro assay系の確立

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13460130
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 林 良博 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (90092303)
• 研究分担者: 金井 克晃 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助手 (30260326) ; 九郎丸 正道 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助教授 (00148636)
• キーワード: 精細胞 / エストロジェン / ビスフェノールA / セルトリ細胞培養系 / 未分化生殖腺器官培養系 / テストステロン / 精巣索

研究概要

まず精細胞の基礎的データの収集を目的として、ヒミズおよびコウモリの精上皮周期、即ちステージ表の作成を行い、またレクチン染色性の相違を確認した。同時にシグナル伝達因子であるSmadの精巣における分布を観察した。その結果、Smad2, Smad3 mRNAは精祖細胞および精母細胞に検出された。次にエストロジェンの精巣における役割を検討するため、生後10週齢の雄ラットにエストロジェンを投与し、1日後に精巣内のテストステロンおよびステロイド合成酵素mRNAレベルを観察した。その結果、テストステロンは著しく減少し、合成酵素も減少したことから、エストロジェン投与はステロイド合成酵素の減少を誘起し、その結果テストステロンが低下したものと考えられた。
さらに、生後10日齢のラット精巣より確立したセルトリ細胞培養系に、エストロジェン作用を示す内分泌かく乱物質の1つとされるビスフェノールA(BPA)を10,100,1000pg/mlの濃度で添加し、2, 4, 6日後に採材、対照群と比較した。その結果、添加後2日では、10,100,1000pg/ml投与群で、それぞれ変性したセルトリ細胞が7.2, 14.7, 20.8%増加していた。同様に添加後4日では、10,100,1000pg/ml投与群で、それぞれ11.4, 19.5, 28.3%,添加後6日では、それぞれ12.6, 21.3, 34.9%増加していた。これらの増加はいずれも対照群に比べ有意であった。このようにBPA添加によって変性セルトリ細胞が濃度依存的、時間依存的に増加したことから、BPAがセルトリ細胞に対して直接的な影響を与える可能性が示唆された。続いて胎齢11.5日のマウス由来の未分化生殖腺器官培養系に、BPAを0.1, 1, 10μM投与し、3,5日後に採材、対照群と比較した。その結果、生殖腺の大きさに変化はなく、また雄では精巣索の正常な形成が確認され、雌においても変化は認められず、BPAは胎仔期未分化生殖腺には直接的な影響を与えないことが推測された。

研究成果

• [文献書誌] Kano, K., Kurohmaru, M., Hayashi, Y., Taniguchi, K.: "Effects of short photoperiod the expression of Smad2 and Smad3 mRNA in Syrian hamster testis"Journal of Veterinary Medical Science. 63. 25-30 (2001)
• [文献書誌] Mizukami, T., Kuwahara, S., Ohmura, M., Iinuma, Y., Izumikubo, J., Hagiwara, M., Kurohmaru, M., Hayashi, Y., Nishida, T.: "The cycle of the seminiferous epithelium in the greater Japanese shrew mole, Urotrichus talpoides"Journal of Veterinary Medical Science. 63. 31-35 (2001)
• [文献書誌] Morigaki, T., Kurohmaru, M., Kanai, Y., Mukohyama, M., Hondo, E., Yamada, J., Agungpriyono, S., Hayashi, Y.: "Cycle of the seminiferous epithelium in the Java fruit bat(Pteropus vampyrus)and the Japanese lesser horseshoe bat(Rhinolophus cornutus)"Journal of Veterinary Medical Science. 63. 773-779 (2001)
• [文献書誌] Mizukami, T., Kuwahara, S., Ohmura, M., Iinuma, Y., Izumikubo, J., Hagiwara, M., Kurohmaru, M., Hayashi, Y., Nishida, T.: "Distribution of lectin binding in the testes of the greater Japanese shrew mole, Urotrichus talpoides"Journal of Reproduction and Development. 47. 205-210 (2001)
• [文献書誌] Sakaue, M., Ishimura, K., Kurosawa, S., Fukuzawa, N.H., Kurohmaru, M., Hayashi, Y., Tohyama, C., Ohsako, S.: "Administration of estradiol-3-benzoate down-regulates the expression of testicular steroidogenic enzyme genes for testosterone production in the adult rat"Journal of Veterinary Medical Science. 64. 107-113 (2002)
• [文献書誌] Awal, M.A., Siddiqi, M.N.H., Kurohmaru, M., Andriana, B.B., Mizukami, T., Kanai, Y., Hayashi, Y.: "Biochemical effects of Bisphenol A on the Sertoli cell culture from prepubertal Wistar rats"The Sciences(Pakistan). 印刷中. (2002)