研究概要 |
ブタ卵子-卵丘細胞複合体(COC)をレチノイン酸,ステロイドホルモンおよびFSH等と培養し,卵子によるNO生成能について調査して,NO生成能の変化が卵子の発達とどのような関係を持つか検討した。COCを培養してから卵子を分離し,空気中の酸化窒素物の混入を避けること,およびNO生成に酸素が要求されることから,酸素-炭酸ガス(95%/5%)および加温(38.5℃)の環境下で,Ionomycin刺激を行い,生成されたNOの酸化物を酸化窒素分析システムを用いて定量した。その結果,(1)レチノイン酸によりNO生成能が低下,(2)ステロイドホルモン,特にエストラジオールによりNO生成能が二相的に変化,(3)FSHによりNO生成能の抑制,等々の知見が得られた。特に,興味があるのは,エストラジオールの作用であり,小卵胞(直径2〜5mm)に含まれているエストラジオールの濃度(約10nM)で,NO生成能が増加することである。しかし,高濃度(100nM)では,逆にNO生成能は抑制される。すなわち,小卵胞までの発達段階では,卵子はNO生成能が高く,排卵に近づくにつれNO生成能が低下することを示唆するものである。しかし,卵子中のeNOSの発現をmRNAおよびタンパク質レベルには変化が見られなかった。排卵に近づくにつれてNO生成能が低下することは,卵成熟の過程ではNOは必要ではないことを示しており,ノックアウトマウスでのNO機能の研究と矛盾するようであるが,今後検討を要する。レチノイン酸によるNO生成能の抑制は,eNOSの発現の抑制を伴っていることが明らかになり,レチノイン酸による卵成熟の影響についても興味が持たれる。 エストラジオールは顆粒膜細胞や卵丘細胞の増殖・分化に深く関わっており,卵胞発育段階では生理的濃度のエストラジオールは体細胞(増殖・分化)にも生殖細胞(NO生成能)にも刺激的な作用を持つ。高濃度のNOは体細胞でのLH受容体の発現に抑制的な機能を持つので,排卵近くになるにつれて卵子によるNO生成能の低下は矛盾するものではない。卵子と体細胞のコミュニケーションは排卵まで,様々に変化することが想像される。
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