研究概要 |
ブタ卵子にはNOを生成するNOS-3が存在するが、過剰な生成ではCytotoxicな効果が考えられる。したがって、その生成には極めて制御され、また必要とされる時期に生成されるような機構が存在するはずである。今年度は、NO生成を誘導するホルモンなどの調節因子、NO生成の時期の2点に絞り・調査を行った。調節因子については、3種類のステロイドホルモン(エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン)を用い、培養系に卵丘細胞-卵子複合体(COCs)を移して経時的なNO生成の変化を調べた。すなわち、ブタ卵胞(直径2〜6mm)から採取したCOCsをエストラジオール(E2)を始め様々なホルモンとフェノールレッドフリーの培地中で、15時間培養した。さらに95%-O2/5%-CO2の気相下で,卵丘細胞を除去した卵子をイオノマイシン(IM)処理により、Caを卵子内に入れて生成したNOの代謝物(Nox:亜硝酸塩+硝酸塩)をENO-20で定量した。NO生成に最も効果を示したのがE2であったが、その他のホルモン(FSH、EGF、forskolinなど)は効果を示さないばかりか、逆にE2の効果を抑制した。E2の効果は15時間がピークを示し、その後は減少した。興味あるのは、卵胞から採取したばかりのCOCsはイオノマイシンを加えても全くNO生成を示さなかった。このことは、この程度の卵胞サイズの卵子はNOを殆ど生成していないことを強く示唆している。また、NO生成が最大になるこの時期は、GVBDが起る直前にあたり(約20時間)、卵成熟との関係が疑われた。事実、NOS-3のノックアウトマウスでは、卵成熟の異常と排卵数の減少が報告されていることから、NO生成と卵成熟について検討した。15時間10nMのE2と処理したCOCsにイオノマイシン処理を24時間行ったところ、第1極体の放出がかなりの頻度で観察された。E2で処理しないCOCsではイオノマイシンを添加しても、第1極体の放出はまったく見られなかった。卵成熟前の卵子におけるNO生成の調節因子の一つがE2であるが、それはNOS-3遺伝子の転写および翻訳のレベルに作用するものではない。しかも、E2作用とNO生成および卵成熟の密接な関連が示唆される。
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