研究概要 |
2000年夏に東日本の観光施設でウサギにアライグマ蛔虫幼虫移行症の大発生がみられた.アライグマ蛔虫幼虫移行症は北米を中心に注目されている人獣共通線虫症で,我が国においては最初の発生であった.本寄生虫による人や各種の動物にみられる幼虫移行症は致死的な脳脊髄線虫症を引き起こすため有効な治療方法が確立されていない.平成13年度はウサギに自然発生したアライグマ蛔虫幼虫移行症について病理学的,寄生虫学的ならびに疫学的に検討した.その結果,本発生の数ケ月前に当該施設に搬入された一般家庭でペットとして飼育されていたアライグマが今回の発生に関与していた可能性が示唆された.現在までに,この発生状況を獣医学会および寄生虫学会で報告した.また,全国の動物園に対してアライグマ蛔虫に関するパンフレットを配布し,啓蒙活動を実施するとともに,飼育されているアライグマの糞便検査を行っているところである.次にアライグマ蛔虫の各種動物における病原性,病態について検討する目的でウサギ,モルモット,スナネズミ,マウスに虫卵を接種し,感染動物を作製した.また,いずれの動物からも経時的に血清の採材を行った.いずれの動物も2〜3週間で発症を示し,中枢神経系に特徴的な病変を認めた.現在,採材した血清と病理標本の解析を進めているところである.また,アライグマ蛔虫幼虫に対する特異抗体の作製を行い,現在までに6種類のモノクロナール抗体が得られ,これら抗体の特異性について現在解析を行っている.更に,血清診断法のためにアライグマ蛔虫雌成虫から虫卵を回収し,幼虫をin vitroで飼養し,その代謝産物を回収し,アライグマ蛔虫幼虫排泄物抗原を作成を行った.現在,得られた幼虫排泄物抗原を,イヌ蛔虫幼虫,ネコ蛔虫幼虫,ブタ蛔虫幼虫排泄物抗原と比較し,その抗原性状について解析を行っている.
|