研究概要 |
(1)アライグマ蛔虫,クマ蛔虫,イヌ蛔虫の各種動物における病原性,病態 ウサギ,モルモット,スナネズミ,マウスにそれぞれの含仔虫卵を接種し,感染動物を作製し,中枢神経系を中心に病理学的検索を行った.アライグマ蛔虫感染動物では発症率が高く,かつ急性に経過し,重篤な神経症状を示した.クマ蛔虫感染動物ではウサギ,マウスでは発症率が低いのに対して,モルモット,スナネズミでは高い発症率を示した.しかしながら,発症動物の経過は比較的ゆっくりであり,またその症状も軽度であった.イヌ蛔虫感染動物ではいずれも臨床的に症状を示さず,発症は確認できなかった.病理組織学的検索では,アライグマ蛔虫では中脳から小脳にかけての広範な軟化を特徴としていたが,虫体そのものに対する炎症反応はみられなかった.一方,クマ蛔虫,イヌ蛔虫では小脳での軟化病変が主体であったが,その程度はアライグマ蛔虫感染動物に比較して軽度であり,これら動物では中心に虫体を含む肉芽腫病変を特徴的としていた.内臓病変はアライグマ蛔虫感染動物ではごくわずかの肉芽腫形成が観察されたのに対して,クマ蛔虫およびイヌ蛔虫感染動物では肉芽腫が多発していた.これらのことから,アライグマ蛔虫はクマ蛔虫,イヌ蛔虫に比較して宿主からの免疫反応を免れる,あるいは免疫反応を誘起しにくい何らかの機構が存在する可能性が示唆された. (2)血清診断法の開発 アライグマ蛔虫幼虫排泄物抗原の作成を行った.得られた幼虫排泄物抗原を,イヌ蛔虫幼虫,ネコ蛔虫幼虫,ブタ蛔虫幼虫排泄物抗原と比較し,その抗原性状について解析を行った.非特異的な反応がみられるものの,得られた抗原はアライグマ蛔虫感染動物血清と反応し,診断学的には充分使えることが明らかとなった.さらに,今後抗原量の確保が問題となる可能性があるため,抗原量が少なくてすむドットブロットによる診断法を確立した.
|