研究概要 |
本研究では獣医領域における腫瘍や免疫異常疾患に対する遺伝子治療を開発することを最終目的としており,平成13年度には1)イヌおよびネコの肝細胞増殖因子(HGF)の発現ベクターおよび発現方法に関する検討、2)イヌp53遺伝子導入アデノウイルスベクターの構築およびイヌ腫瘍細胞株に対する抗腫瘍効果の検討、3)FIVを用いた自殺遺伝子導入レトロウイルスベクターの作成、を中心に研究を行ってきた。今年度の具体的な研究成果については以下の通りである。 1.イヌおよびネコの肝・腎不全に対する肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子治療の基礎研究 イヌおよびネコHGFのcDNAについてそれぞれ塩基配列を決定した。またHGFを用いた遺伝子治療の基礎データとして導入を考慮する各種肝疾患におけるHGFならびにTGFβの発現解析を行い,疾患ごとにその発現が異なることを明らかにした。さらにイヌおよびネコHGFを発現プラスミドに組み込み、in vitroで細胞株に導入してその生物活性を確認するとともに,カチオニックリポソーム法を用いて実験動物(マウス)に遺伝子導入を行い,各種組織における発現について検討を行った。 2.小動物の腫瘍に対する遺伝子治療の基礎研究 犬および猫の自然発生腫瘍症例を用いてp53遺伝子について検討を行い,とくに犬においてはヒトと同様に約半数の腫瘍症例でp53遺伝子の異常が検出されることを見い出し、p53が標的遺伝子として利用可能であると考えられた。この結果をもとにイヌp53遺伝子をコスミドベクターに組み込み、組み換えアデノウイルスの作成を行った。まず今年度は各種イヌ腫瘍細胞株を用いたin vitroでの実験よって、イヌp53遺伝子導入アデノウイルスによって抗腫瘍効果(増殖抑制,アポトーシス誘導)が認められることを確認した。またp53を不活化するMDM2についても解析を進め,特定の腫瘍においては過剰発現があることを明らかにし、アンチセンスRNAが生じるようにMDM2遺伝子を正常とは逆向きに組み込んだ組み換えアデノウイルスの作成を行った。
|