雄生殖器官が恒常培養条件下においても誘導される変異株hpt2040では、3つの異なるゲノム領域の再編(genomic rearrangement)が生じたことを明らかにした。すなわち、タグであるプラスミドDNA断片の挿入に伴い、pMM23-195C11、pMM23-475F7およびpMM24-34B2としてクローン化された3つの野生株ゲノム領域が再編されたと考えられる。この再編に伴い、野生株ゲノムDNAの少なくとも3ヶ所の配列が欠失し、hpt2040ゲノムに4ヶ所の組み換え配列が生じていた。これらの変異箇所について変異表現型との連鎖を調べたところ、3ヶ所の欠失と2ヶ所の組み換え配列が変異表現型と連鎖してた。このことから、これらの変異がhpt2040変異表現型の原因である可能性が示された。この欠失および組み換え領域近傍にあたる野生株のゲノム配列中には、複数の遺伝子が予測された。エキソンの予測が集中した7ヶ所についてRT-PCRを行ったところ、いずれの発現も変異株では検出されなかったが、野生株においては3ヶ所で発現を検出した。 これらの遺伝子の少なくともひとつがその発現を喪失することによってhpt2040変異が生じたとするならば、hpt2040の変異表現型はloss-of-function型の変異によるものであることが推測される。この場合の原因遺伝子の生殖生長相への転換の制御における役割は次のようなものであると考えられる。この遺伝子は栄養生殖相にあるゼニゴケ葉状体において発現し、生殖生長相への転換を抑制している。そして生殖器官形成を促進する環境下においてこの遺伝子の発現が抑制されることにより、葉状体の生殖生長相への転換の抑制が解除され、生殖器官が形成されると考えられる。
|