研究概要 |
受精時の哺乳動物卵で精子の作用により細胞内カルシウムイオン(Ca^<2+>)濃度の一過性の増加が反復して起り(Ca^<2+>オシレーション),これが卵を受精卵として活性化する.個々のCa^<2+>増加反応は,細胞内Ca^<2+>貯蔵器官である小胞体からのイノシトール3リン酸(IP_3)受容体を介するCa^<2+>遊離による.精子抽出物を卵内に注入しても同様の反応が起こることから,精子にCa^<2+>オシレーション誘起性蛋白質が存在し,精子-卵の融合時に精子から卵に移行し,これが即ち卵活性化蛋白質(egg-activating protein, EAP)であると考えられる.本研究は,EAPをハムスター精子,ブタ精巣から精製・同定する目的で進められてきた.2002年,IP_3を産生酵素であるホスフォリパーゼC(PLC)の新しいサブタイプPLCζが,EAPの有力候補であるという論文が発表された.我々はPLCζについての追加確認実験を行った.1)PLCζに蛍光蛋白質(Venus)を結合させたDNAからRNAを作成し,これをマウス成熟卵に注入した.蛍光標識された発現したPLCζはごく少量でCa^<2+>オシレーションを誘起することが確認された.2)マウス卵に発現したPLCζはCa^<2+>オシレーションを起こして卵を活性化し前核が形成されるが,PLCζが前核に移行していくことが観察された.これは受精卵でEAP活性が前核に集中するという既知の事実に一致する.3)PLCζをバキュロウイルス/Sf9細胞系で合成し,得られたリコンビナントPLCζを卵内に注入してCa^<2+>オシレーションを誘起することが観察された.またPLCとしての酵素活性を,基質であるホスファティディルイノシトール2リン酸からIP_3の産生能で調べた結果,Ca^<2+>に対する感受性が非常に高いことが分った.これらの所見はPLCζがEAPの有力候補であることを示した.
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