研究概要 |
腸内細菌の宿主への定着は様々な生理機能に関与しているが、本研究では、腸内細菌がストレスに対する視床下部-下垂体-副腎軸(HPA axis)の反応性へどのように関与しているかについて無菌(germ free:GF)マウスおよび様々な単一細菌で構成された人工菌叢マウスを用いて検討した。この3カ年の研究成果を以下にまとめる。 (1)人工菌叢マウスを用いて、拘束ストレスに対するHPA axisの反応性をGF,SPFマウスと比較、検討した。なお実験には単一細菌の状態で3代維持したものを用いた。その結果、Bacteroides vulagatus単一細菌マウスではGFマウスの反応性と同一であったが、Bifidobacterium infantis単一細菌マウスでは、GFマウスで認められたストレスに対する過大反応が有意に減じていた。一方、病原性大腸菌単一細菌マウス(EPEC)のストレメ感受性は、GFマウスよりも亢進していた。 (2)脳内の各部位における神経成長因子の濃度についてGFとSPFマウスで比較・検討したところ、GFマウスではSPFマウスと比較し、frontal cortex,hippocampus領域でのbrain-derived neurotrophic factor濃度が有意に低下していた。一方、nerve-growth factor,NT-3濃度に関しては、両マウス間で有意な濃度差は認めなかった。frontal cortex, hippocampusはHPA axisの機能制御に深く関わっているばかりでなく出生後に発達する代表的な部位であることより、GFマウスでは生後の中枢神経発達が十分ではない可能性を示唆している。 (3)成長の初期段階においてGFマウスをSPF化したマウスでは、成長後のストレス反応がSPFレベルまで減弱していたが、一方成長後にSPF化の処置を施してもストレス反応の変化は認めなかった。
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