本研究の目的は、小脳プルキンエ細胞においてIP_3をイメージングし、LTD誘発機構におけるIP_3の役割を時間的および空間的コンテクストにおいて明らかにすることである。この目的のため、平成13年度に行った主に培養細胞系を用いたマウス小脳プルキンエ細胞でのIP_3イメ-ジングに関しての基礎的な実験を基盤にし、平成14年度においては、IP_3とLTDとの関連について明らかにしていくために、計画の通り高解像度のIP_3イメージングをスライス標本で行う実験に移行した。IP_3イメージングのためのプローブは、我々の開発したGFP-PHD(グリーンフルオレセント蛋白(GFP)とホスホリパーゼCδ1のPHドメインの融合蛋白)であるが、このGFP-PHDのcDNAを乗せたSindbisウイルスベクターを直接生きたマウスの脳に注入することによって、高効率にIP_3イメージングプローブ蛋白をプルキンエ細胞内で発現させることに成功した。この実験系を用いて、平成13年度に発見したイオンチャネル型グルタミン酸受容体のアゴニストAMPAによるIP_3産生現象が、単に薬理学的なepi-phenomenonではなく、生理的刺激によっても誘発されうることを見出した。これらの知見は従来の考え方を覆す知見であり、LTD現象へのIP_3の関わりの実像について意外な一場面が見えてきたものと考えられる。さらにIP_3の関わりを明らかにする為のツールである幾つかの新規化合物についてその評価を行い、さらに詳細なメカニズムの解明へ向けた準備が整いつつある。
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