研究概要 |
自動運動能を有する平滑筋臓器におけるKitシグナルの役割を解明するために,c-Kit(レセプター型チロシンキナーゼ)発現ペースメーカー細胞の分布と機能について免疫組織化学的,電顕的に検討した.抗c-Kit中和抗体(ACK2)を出生直後から8日目まで腹腔内投与したBALB/cマウスを用いて調べた結果,消化管組織内でネットワークを形成するc-Kit発現細胞(Cajal間質細胞)は,ペースメーカーとしての役割だけでなく,腸管神経系から平滑筋へのシグナル伝達の調節も行っていることが示唆された.また,c-Kit発現細胞と消化管平滑筋細胞は同じc-Kit陽性の前駆細胞から発達しており,どちらの細胞に分化するかはKitシグナル伝達に依存していた. さらに,消化管平滑筋収縮機能の発達と細胞内Ca^<2+>シグナル系に対するc-Kitの役割について電気生理学的,薬理学的に検討した.パッチクランプ法により,膜電位固定下のc-Kit発現細胞において律動性のCa^<2+>依存性Cl^-電流が観察された.平滑筋細胞において,自発振動性及びcaffeine惹起のCa^<2+>依存性K^+電流が観察された.ACK2処置によりc-Kit発現細胞の欠落と自動運動障害をおこしている消化管では,bradykinin, acetylcboline, prostagland in F_<2α>を含む薬物に対する収縮応答が異常に増大した.この異常な収縮応答は,律動性収縮の障害を伴っており,低温(25℃)の標本槽溶液で潅流したときの効果に類似していた.、これらの結果から,c-Kit発現細胞からの律動性の電気的入力にtriggerされて平滑筋細胞の興奮性放電が律動的におこり,さらにその律動的な放電によって薬物に誘導される収縮の強さが調節されていると示唆される.
|