研究概要 |
1,新しい哺乳動物ホスホリパーゼC分子種PLCεが、低分子量GTP結合蛋白質RasとRap1の標的蛋白質(エフェクター)であり、GTP結合型Ras, Rap1との結合によって各々細胞膜とゴルジ装置に移送され、ホスホリパーゼC活性が活性化される事を証明した。血小板由来細胞増殖因子(PDGF)による刺激が、RasとRap1の活性化を介して各々即時的と持続的の二相性のPLCε活性化を引き起こす事を示した。 2,PLCεは、そのN末端に存在するCDC25類似ドメインにてRap1に対してグアニンヌクレオチド交換促進活性を持ち、ゴルジ装置においてこのCDC25類似ドメインを介してRap1を活性化することによりシグナルを自己増幅する機能を有する全く新しいタイプのエフェクター事を証明した。 3,PLCεは、マウス胎生10-11日目には神経管の神経上皮、12日目以降は脳室・脊髄中心管周囲のVentricular ZoneとSubventricular Zoneに局在する神経系前駆(幹)細胞に特異的に強く発現されていた。また、ヒト胚性がん細胞NTERA-2にレチノイン酸で神経細胞分化を誘導する系にて、レチノイン酸処理後すぐにPLCεの発現が強く誘導される事がわかった。これらの結果から、PLCεが神経系前駆(幹)細胞の発生・分化に関与する可能性が示唆された。 4,活性部位であるXドメインを欠失したPLCε遺伝子を用いた遺伝子ターゲッティングによりPLCε遺伝子ノックアウトマウスを得て、ホモ接合体の作製に成功した。胎児期致死性ではなかったので、現在その表現型を鋭意解析中である。線虫については、PLCε遺伝子欠損株を得て不妊表現型を示す事を示した。この不妊表現型は貯精嚢で受精した卵の子宮への移行障害(貯精嚢収縮障害)に起因することが判明した。
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