私共は、これまでに、Rab3Aの活性制御蛋白質Rab GDIとRab3 GEPがシナプス小胞輸送の調節を介して神経伝達物質の放出を制御し、プレシナプス性のシナプス可塑性にまで関与していることを個体レベルの解析で明らかにしている。本年度の本研究では、今ひとつの活性制御蛋白質Rab3 GAPのノックアウトマウスの作製に成功し、個体レベルの解析を開始した。さらに、昨年度の本研究で単離に成功したRab3 GEPおよびGAPのscaffold蛋白質Rabconnectin-3のノックアウトマウスの作製も開始し、すでにES細胞のスクリーニングの段階まで終了した。一方、ポストシナプス性のシナプス可塑性については、グルタミン酸受容体の小胞輸送が重要であることが明らかになりつつある。本研究では、プレシナプスの解析と同様に小胞輸送の制御分子群Rabファミリーに注目して、グルタミン酸受容体の小胞輸送の制御機構の解析を行うことを目的とし、グルタミン酸受容体が細胞膜に運ばれる小胞輸送の過程と細胞膜から取り込まれ、再び細胞膜へリサイクリングされる小胞輸送の過程を生化学的に解析できるアッセイ系の開発を開始した。前者は、上皮細胞の基底側膜蛋白質(LDL受容体)と頂端側膜蛋白質(神経栄養因子受容体)の細胞膜に至る小胞輸送の過程について定量的に解析できるアッセイ系を、後者は、トランスフェリン受容体が細胞内に取り込まれ、エンドソームで選別されて再び細胞膜へリサイクリングされる過程を定量的に解析できるアッセイ系を応用して確立しつつあり、現在、このアッセイ系を用いてグルタミン酸受容体の輸送に関わるRabのメンバーの同定を試みている。このように、プレおよびポストシナプス性のシナプス可塑性の研究は最終結果を得るには至っていないが、ともに順調に進み、当初の目的はほぼ達成できた。
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