私共を含めたいくつかのグループにより、Rab3A低分子量G蛋白質がシナプス小胞輸送の調節系の中心分子として働くことが明らかになっている。私共は、その研究過程で、Rab3Aの活性制御蛋白質を発見し、これらがRab3Aの活性と局在をサイクリカルに制御する機構がシナプス小胞輸送の調節において特に重要であるというモデルを提唱している。実際、活性制御蛋白質のひとつであるRab GDIのノックアウトマウスを用いた個体レベルの解析により、Rab GDIがシナプス小胞輸送の調節を介してシナプス可塑性にまで関与していることを証明している。そこで、本研究では、シナプス可塑性の分子機構を明らかにする目的で、Rab3Aの活性制御蛋白質の解析を行い、以下の成果を得た。1.Rab3 GEPのノックアウトマウスを作製したところ、このマウスは出生直後に呼吸不全で死亡した。このマウスの横隔神経終末ではシナプス小胞の減少とアクテイブゾーンの形成不全が認められ、その結果、横隔神経終末からの神経伝達物質放出が抑制されるため、横隔筋の収縮が引き起こされないことを明らかにした。2.Rab3 GEPやGAPがシナプス小胞輸送のどの過程で作用するのかを明らかにする目的で、これらの蛋白質に結合する蛋白質の同定を試みた。Rab3 GEPとRab3 GAPに対する特異抗体によりラット脳シナプス小胞膜画分から各々の蛋白質とともに免疫沈降される分子量340kDaの新規蛋白質を同定し、Rabconnectin-3と命名した。Rabconnectin-3はシナプス小胞に局在することから、シナプス細胞質に存在するRab3 GEPとGAPをシナプス小胞膜上にリクルートすることによって、Rab3Aの活性化/不活性化を制御していることが示唆された。このように、本研究は予想以上に進展し、当初の目的はほぼ達成できた。
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