bHLH型転写因子の機能抑制因子の一つであるId2は、細胞の分化と増殖の制御に深く係わっている。Id2欠損マウスが示す多彩な病態(行動異常、乳汁分泌不全、免疫担当細胞の分化など)の解析をとおして、細胞の増殖と分化がどのように制御されているのかを個体レベルであきらかにすることが本研究の目的である。 1.中枢神経系:線条体と黒質を含む種々の脳の領域の組織学的解析行ったが、有意なId2欠損マウス所は検出できなかった。in situ hybridizationを用いてbHLH因子の発現解析を行い対照マウスとId2欠損マウスで比較ところ、11.5日齢胎仔ではMash1、neurogenin2に差は認めなかったが、Math2の発現はId2欠損マウスにおいて大脳皮質の広範囲にかつ強く認められた。11.5日齢胎仔の脳室帯での細胞増殖の程度をKi67抗体で検討したところ、対照に比しId2欠損マウスでは染色性が減弱していた。また、抗GAD抗体を用いてGABAニューロンの数と分布を検討したが、対照とId2欠損マウスの差は認めなかった。しかし、スライス切片を用いた黒質網様部GABAニューロンの解析では、対照に比しId2欠損マウスで、自然発火頻度が1.3倍程度亢進していた。 2.乳腺:他の遺伝子改変マウスとの交配実験によりId2欠損マウスにみられる乳汁分泌不全の改善を試みたが、サイクリンD1トランスジェニックマウスおよびCDKインヒビターの一つであるp27の欠損マウスいずれでも改善されなかった。 3.免疫系:Id2欠損マウスが鼻咽頭関連リンパ組織を欠損する唯一のマウスであることを報告した。また、Id2欠損マウスがCD8α陽性樹状細胞の選択的欠落を伴いTh2優位状態にあることを示した。さらに、B細胞の免疫グロブリンのクラススイッチにおいてId2がIgEへの過剰なスイッチを抑制していることを明らかにした。
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