研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の分子病態はβアミロイドペプチド(Aβ)の脳への異常蓄積であるとする説が有力である。本研究はAβ仮説の多角的な解析・検証と新たな治療法開発を目的とするものである。Aβは前駆体蛋白(APP)からβおよびγセクレターゼによる蛋白分解を経て生成分泌されるが、なかでもAβの病原性を決定付けるγセクレターゼの解析に焦点を当てる。(1)Aβ生成の調節機構の解析;我々はγセクレターゼがプレセニリンを含むタンパク質複合体であること、その構成タンパク質にニカストリンがあることを明らかにしてきた。さらに、APP切断とNotch切断にはニカストリンを含む同じ複合体が関わること(Nat Cell Biol,2001)、複合体構成タンパク質として同定されたPEN-2はγセクレターゼの活性化に重要な働きをすること(J Neurochem, in press)、Alcadeinは新たな基質でありAPPとともにFe65を介する遺伝子発現調節に関わること(J Biol Chem, in press)などの成果を発表した。また、原因遺伝子として知られるプレセニリンの変異は病原性の高いAβ(Aβ_<42/43>)の生成を増加させる。そのメカニズムを明らかにするため、PS1分子へのランダム変異導入による変異体のスクリーニングを行い、Aβ_<42/43>生成活性のみを示すきわめて特異なPS1変異体を同定することに成功している(投稿準備中)。この成果は今後、Aβ_<42/43>生成活性を選択的に抑制する方策を探り、新たな治療法を開発するための基礎研究と位置付けている。(2)Aβ仮説の検証;よりヒトに近いADモデル動物を確立するため、霊長類のうち実験動物化の進められたカニクイサルを用いて遺伝子改変個体の作製を試みつつある。これにより、Aβ仮説を検証するとともに病態の詳細な解明と治療法開発評価に有用なモデルを樹立する予定である。
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