研究概要 |
Aberrant crypt foci(ACF)は大腸発癌過程早期に出現する異型腺管巣であり、前癌病変として、広く受け入れられてきた。最近、申請者のグループはラット大腸発癌モデルを用いて、ACFとは異なる発癌過程早期に出現する粘膜内病変を報告した(Cancer Res.60,3323-3327,2000)。この病変はβカテニン遺伝子変異とβカテニン蛋白異常蓄積を伴い(Cancer Res.61,1874-1878,2001)、さらにそれらは、強い大腸発癌抑制効果が知られるCOX-2阻害薬によってその発育が抑制されることを示した(Jpn J Cancer Res 92,617-623,2001)。我々の結果よりラットではβカテニン蛋白蓄積異常陰窩巣がACFよりも直接的な大腸前癌病変である可能性が強く示唆された。ヒトでの当該病変の検索を進行中であり、まずヒトACFおよび直径約5mmの小ポリープに関して免疫組織学的検索を行った。39名の大腸癌切除標本より281例のACFを採取した。そのうち163例では組織学的に明らかな変化は確認されず、107例に過形成性変化を、11例に軽度の異形成を認めた。ヒトACFについてβカテニンの免疫組織学的に検索を行ったが、全例において明らかな細胞質および核への蓄積は確認できなかった。同時に直径5mm以下の大腸ポリープ300例に関しても免疫組織学的検討を行ったが、その約1/3に核へのβカテニン蛋白蓄積を認め、small polypではβカテニン蛋白蓄積の関与が示唆された。現在ACFからsmall polypへの進展の可能性の検討やACFの形態を取らない粘膜内病変の検索を進行中である。今後APC遺伝子、K-ras遺伝子等の変異の検索を行い、より直接的な前癌病変の検索を試みる予定である。
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