研究概要 |
腸管寄生虫感染にともなう消化吸収障害の背景病変とその発生機序を明らかにする目的で感染小腸の上皮細胞における変化を主にアポトーシス発現およびグルコーネトランスポータやアミノ酸トランスポータ発現の視点からin vivoおよびin vitroで解析した.Nippostrongylus brasiliensis感染ラット小腸には上皮細胞障害とともに絨毛萎縮が生じることが見出された.胸腺欠損rnu/rnuラットおよびマスト細胞欠損Ws/Wsラットを用いた研究により,絨毛萎縮はT細胞依存性に生じるがマスト細胞は関与せず,上皮細胞のcaspase-3依存性アポトーシスの亢進がその発現に関与していると推測された.またT細胞依存性絨毛萎縮の発現には,強力なアポトーシス誘導因子であるgranzyme Bを発現する細胞の増加が密接に関連していることが見出された.一方,TNFはT細胞非依存性細胞障害に関与することが示唆され,さらにin vitroの研究によりN.brasiliensisはFas発現促進因子およびアポトーシス誘導因子を産生分泌することが見出され,これらの因子もT細胞非依存性細胞障害に関与すると推測された.N.brasiliensis感染極期に低アルブミン血症および低血糖が生じるが,その時期には吸収上皮細胞のグルコース吸収に重要な役割を果たすSGLT1およびGLUT5,アミノ酸トランスポータのLAT2およびペプチドトランスポータのPepT1の発現が低下することが見出された.これらの結果から,線虫感染はT細胞依存性,非依存性に各種のトランスポータ発現の低下を伴う吸収上皮細胞障害とアポトーシス亢進を生じ,そのことによって管腔内からの吸収低下を発現すると考えられた.ヒトにおけるトランスポータ発現の変化については今回明確な結論は得られず,今後明らかにしていく必要がある.
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