本研究は、ウイルス粒子の外郭を構成するカプシドタンパク質の自己組織化能を利用して試験管内で構成される人工構造体内に、DNAやタンパク質などの生理活性物質や薬剤などの化学物質を包み込み、標的細胞に、それら包含物を的確に、効率よく導入することを目的としている。小型DNAウイルスであるSV40やAAVのカプシドタンパク質は、VP1、VP2、VP3の3種類があり、野生型ウイルスの最表面を構成している主要なカプシドタンパク質はSV40ではVP1で、AAVではVP3である。我々は、バキュロウイルス発現系を用いて、それらカプシドタンパク質によるウイルス様粒子(VLP)の形成系、VLPの精製系、さらに、VLPの試験管内の再構成系を確立し、構造体形成に関与する諸因子や諸条件を検討した。本研究では、再構成反応の条件をうまくコントロールすることで、正二十面体構造体や、その1/4サイズの構造体や、細長い管状構造体や、風船様構造体などが形成されることを示し、個々の構造体の形成制御に関する新たな知見を得た。特に、カルシウム結合部位による制御が重要であることを見出した。このin vitro実験成果を基にして、in vivo実験を行った結果、SV40が宿主細胞に感染して、細胞内や核内への移行、およびウイルス粒子形成にも、カルシウム結合部位が重要な役割を担っていることを明らかにし、これまでベールに包まれていた感染後の宿主細胞内における経時的なSV40粒子の挙動を解き明かすことに成功した。また、試験管内で再構成される人工構造体の中に、DNAやタンパク質などの生体物質や化学物質を導入する基盤技術、および構造体の表面を遺伝子工学的に改変する基盤技術を開発した。
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