PrPとの相同性から、PrPLP/Dplの神経細胞における発現がプリオン病におけるPrPScの蓄積あるいは病態に影響を与える可能性があり、遺伝子改変マウスを用いて検討した。先ず、神経細胞でPrPLP/Dplを異所性に発現するマウス(Ngsk-Prnp0/+)にプリオン(Fukuoka-1 株)を脳内に接種し、発症までの潜伏期、病理変化、PrPSc蓄積を解析し、PrPを同等レベルに発現するがPrPLP/Dplは発現しないマウス(Zrch-Prnp0/+)と比較検討した。両者の潜伏期の平均は各々282±23及び286±27日と有意差を認めず、病理学的にも同様の部位(大脳皮質と海馬)に同レベルの海綿状変性とグリオーシスが検出された。また蓄積したPrPSc量にも差はなく、糖鎖付加パターンも同様であった。即ち、PrPLP/Dplはプリオン病マウスモデルにおいては、その病態を正にも負にも修飾しないと結論された。 またプリオン接種Ngsk-Prnp0/+マウス脳内にはプロテアーゼ抵抗性PrPLP/Dplは検出されず、プリオンによるPrPLP/Dpl構造変換を示唆する証拠は得られなかった。さらにプリオン接種Ngsk-Prnp0/+マウス脳乳剤をPrPは発現せずPrPLP/Dplのみを発現するNgsk-Prnp0/0マウスに脳内接種したが接種後400日以上経過しても発症は見られていない。即ち、プリオンによってはPrPLP/Dplの構造変換を誘導することはできず、病原性も獲得しないことが示唆された。
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