研究概要 |
1.カモ由来のA型インフルエンザウイルスノイラミニダーゼの酸性pHにおける安定性はヒトから分離されるA型ウイルスと明確に異なることの発見。 カモから分離されるインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ(N1,N2,N3,N5,N8,N9)活性は、pH4.5以下での安定、活性が維持される、ヒト間で流行していたA型ウイルスの場合(N1,N2)は、同条件で完全に失活することを発見した。カモ場合、湖水と共に飲み込まれたウイルスは胃から腸管に運ばれる過程で胃の酸性に耐えるウイルスが腸管で増殖、選択されるためと考えられた。一方、ヒトの場合、ウイルスは上気道で増殖し、ヒト間で流行を繰り返す間に、胃の酸性に対する抵抗性を必要としなくなっていくものと考えられた。ヒトから分離されるH2N2ウイルス(アジア風邪ウイルス)やホンコン風邪ウイルス(H3N2)の流行初期に分離されたウイルス中には、カモの性質を保持しているものもあり、この性質は、ウイルスの宿主域変異や動物種間伝播を簡便にアッセイする上で極めて有効である。 2.インフルエンザウイルスノイラミニダーゼ活性は、ウイルスヘマグルチニンの受容体結合親和性とのバランスの上で発現される。 受容体シアル酸含有糖鎖の発現を抑制した細胞から分離されるインフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼ活性を欠いていることを見出した。このウイルスの性質を調べた結果、ノイラミニダーゼ遺伝子の活性中心部位が欠如していた。ノイラミニダーゼ活性を欠くウイルスは、宿主細胞から発芽出来ず、感染細胞で凝集を起こすことが知られている。今回分離されたノイラミニダーゼ活性を持たないウイルスは、上記宿主細胞から遊離出来ることから、ウイルスヘマグルチニン(HA)の受容体への結合親和性が低いウイルスは、ノイラミニダーゼ活性を欠いても宿主細胞から遊離可能であることが示唆された。この結果は、ウイルスの宿主細胞からの発芽機構を解明する上で重要な知見である。
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